さよならだけの人生/舞台『怒りをこめてふり返れ』
あぁ実に、気分の悪い作品!
私は、舞台『怒りをこめてふり返れ』を一言でそう表現する。
言葉の渦。
役者たちの息遣い。
多過ぎるセリフ。
きたきたきたきた!生きてる!という感じがピリピリと伝わってくる。
たまらない。
私好み!
そう、素晴らしい舞台だった。
難しく考えると、持っていかれる。
単純に考えようとすると、繋がらない。
約3時間の中で、私は何度も自分を見失い、途方に暮れた。
この作品を観ようと思った理由はシンプルで、主演が中村倫也さんだからだ。
中村倫也さん主演の舞台を観るのは、HISTORY BOYSから3年、2度目となる。(主演じゃない舞台除く)
これといった分かりやすい特徴がないのに、圧倒的な存在感があった。
強烈な個性があるわけじゃないし、目立った役じゃないのに、目立っていた。
レンジャーでいう、レッドみたいな感じ。
そこに立つだけで、センターの人だった。
でもこの舞台を観るまでの私が知る中村倫也さんは、名脇役だった。
だから、センターも出来るなんて!!この人、すごい‥!!!
“どんな脇役でも出来る”んじゃない。
“どんな役でも出来る”んだ。
主役の顔になったら、主役の役をきっちり出来る人だ!!
年齢的にもキャリアも実力も、評価もある人?と、思い込んで調べたら、HISTORY BOYSが初主演舞台だった。
驚いた。
この人は、もっと評価されるべき人だろう!!
当時、別の役者目当てで観劇したが、中村倫也さんの実力と魅力にすっかりハマっていた。
さて、今回「怒りをこめてふり返れ」の千穐楽のみ観劇した。
難しいことは専門外ですので、言いません(笑)わかんないもん!(笑)
ただ、すごい迫力。
掴み合いや絡みのシーンも全力!!物や、なんなら役者までもが飛んで来そうで怖かった。
私、最前列だったけど、いつでも倫也さんを受け止める準備はあったよ?(さぁこい)
1幕で、浅利さんの額が切れて流血するというアクシデントがあったが、そのときの立ち振る舞いが見事だった。
すごく雑な動きなのに、しっかり布巾を傷口に当てる、倫也さん。
会話の中で鏡台で額を確認する浅利さん。
他にも表現が違うところがあったようで、何度目かの方々が楽しそうだった!
悔しい!!
これは、もっと観たかったぞ。
千穐楽より前に見ていたら、きっと、当日券頑張ってたと思う。地方だけど通いつめたと思う。
だから、千穐楽が私の初日で良かったのかもしれない。
だって、一度きりでよかったと思う気持ちもあるから‥。
だって、この舞台、すごく疲れるんだもん。
ジミー(中村倫也)はずっと怒ってる。
その言葉には負の力があって、負の力がある言葉を浴び続けるのは、精神をすり減らす。
中村倫也さんの主演舞台だから観たかった‥‥
そんなこと言ってたのに、倫也さんのジミーは、耳を塞ぎたくなるような、理屈っぽい罵詈雑言続きだ。
世の中をナナメにしか見られないの?と、反論したくなると、もうすでにジミーの世界の中にある。
寂しい人だなぁ。
かわいそうな人。
一瞬一瞬の表情が秀逸で、顔が違う。
鏡越しに見えた顔。
新聞で隠した顔。
怒りからの、悲しみ。
一幕の終わりの、あの、孤独。
グッと掴まれて、闇の底に落とされるような感覚だった。
深い深い闇だった。
ジミーは自分を「さよならだけの人生」と言った。
ねぇ、なんで、ジミーにはさよならだけなんだろう。
さよならがあるってことは、その前に同じ数だけ「初めまして」があったはずだよ。
初めましてがあって、必ず、さよならがあるのが人生で。
さよならのない人生なんてない。
なのに、ジミーは、自分を「さよならだけ」と言う。
なんでかなぁ‥。
それは、彼の人生によるものだけど、ジミーは、失うものだけ、見てる。
雑な振る舞いは、繊細な自分、弱い自分を隠すため。
やっぱり、寂しい人だなぁ‥。
何度も言うけれど、あの目、あの表情。
ぐしゃぐしゃになって、感情をむき出しにしてるとことか。
ジミーって、素直だよね。
曲がっているように見えて、とっても素直。
だから、感情の浮き沈みも多いし。
ジミーの人生を生きた中村倫也さんはすごかった‥。
ふと、思った。
この怒りって、今のSNS社会が似てない?
炎上する、叩く、みたいな。
否定でしか自己の存在を示さないのだろうか。
‥‥と、この一言も、立派な否定だよね。(反省)
今日みたいに負の言葉を浴び続けると、プラスの言葉を使いたくなる。
だって、健康によくないんだもん。
否定の言葉って、こんなにも重いんだもの。
さよならだけじゃなく、さよなら“まで”を想える人でありたいな、と思った。
初めましてから、さよならまでを大事にしたい。
さよならの後も大事にしたい。
ヘレナが言った、『人を傷つけていたら幸せになれない』って考えでいたい。
そんなこと言うとジミーに嫌われそうだけど。 残念。(笑)
最後にひとつ。
カーテンコールがとてもとても可愛らしかったです。
頭下げて、どうする?上げる?上げる?まだ?って共演者でタイミング計ってるところとか。
扉通り過ぎていって出てこなかったりとか。
引っ張っられて出て来ちゃうとか。
浅利さんを残して扉閉めちゃうとか。
浅利さん、ひとりで踊り出すとか。
それを扉の隙間からみてる倫也さんとか。
こんなお茶目で、あんな役をやっちゃうんだからなぁもう!(たまらない気持ち)
次はどんな顔(役)を見せてくれるんでしょうか?
楽しみです。
怒りをこめてふり返れ
千穐楽(2017年7月30日)
新国立劇場 小劇場
約3時間5分(1幕95分 休憩15分 2幕75分)